1~12集(大結局)
「迷霧劇場」の一作。このシリーズで私が見るのは三作目。「隠秘的角落」と同じ紫金陳原作の厳良を探偵役とする「推理之王」シリーズの第三作「長夜難明」のドラマ化です。
話がドラマから離れますが、この紫金陳のシリーズ第1作は「無証之罪」、第2作が「坏小孩」でこれが「隠秘的角落」の原作になります。「隠秘的角落」では原作では「丁浩」だった少年の名前が厳良となっていて、本来の厳良は出てこないと教えていただきました。この「沈黙的真相」と被るのを避けたのかな~とか勘ぐってます。
「無証之罪」は日本でも放送されたし、「坏小孩」は翻訳本が出されるということなので、この「長夜難明」なり「沈黙的真相」も何かの形で「来日」してくれないかな~と期待しているところです。
このドラマ、2010年に起こった事件から始まっているんですが、その謎を追っていくうちに2007年、2003年、さらには2000年と過去へとつながっていきます。それぞれに謎を追う人物がいて、ドラマは時間を切り替えながら展開します。
時に並行し、時に細かく場面をつなげ、2010年に登場する人物たちと過去の人物たちが重なり合い、絡み合うという大変複雑な構成になっています。ところが、それなのに見ていて混乱するということはなく、すっと物語世界を受け止めることができました。
そして、何より最後まで見終わった時の満足感。途中で切れているということもなく、説明不足とか伏線回収されてないというようなこともなく、きれいに大結局を見終わることができたのだけでもうれしい中華ドラマ迷。
主役は厳良の廖凡と江陽の白宇。ただ、事件の謎に迫る探偵役はもっといると言っていいと思います。
で、以下、極力ミステリの根幹にふれることなく感想を書くという難題に挑戦してみます。
でも、きっと無理💦
ドラマの冒頭、地下鉄の駅に巨大なスーツケースを持ち込もうとしている初老の男性張超。中国では地下鉄とかに乗る時も行われる手荷物検査を逃れようとして、爆弾まで持ち出した彼を逮捕した江譚市の警官たちはそのスーツケースの中に一人の男の死体を見つけます。
こうして始まったこの事件。自白もあるし、単純な事件に思えましたが、裁判になって突然犯人の張超が殺人犯は自分ではない、その日の完璧なアリバイがあると言い出します。さらに新聞社の記者張暁倩の元に一枚の写真の切れ端が送られる。三日ごとに9分の1ずつ写真を送る、その写真を新聞に掲載しなければ市内のどこかで爆弾を破裂させるという手紙が添えられていた。
事件はこうして一筋縄ではいかないものとなり、厳良が事件解決のために特捜チームに招かれます。実は著名な弁護士である張超、彼が運んでいた死体の江陽の過去を探るところから、厳良たちは2000年に起きた事件、2003年に起きた事件の存在を知ることになります。
単純な事件に見えて、その奥に巨悪が潜んでいるということはかなり早くから見えているんですが、それを解き明かしていく行程を見るミステリならではの楽しみを堪能できました。
でも、同時にこのドラマで悪に挑んでボロボロになっていく「探偵役」たちのドラマがすごかった。
ほんとに、ここから見てない人ご遠慮くださいエリアですよ~
まず、2000年に死んだ学校教師侯貴平。彼がレイプ犯で自殺したというのは事実ではないと2003年に検察院で働く江陽の元に再調査を求めてやってきたのが元同級生の李静。彼女の願いを聞いて、調査に乗り出した江陽は、刑事の朱偉と知り合い、彼と共に事件の闇に飲み込まれていきます。
侯貴平は犯罪の背景を知ってしまったために殺害されたのではないかと捜査を続ける江陽と朱偉に、真実を暴かれることを恐れる権力者たちの影が姿を見せてきます。あくまでも真実を求める江陽と朱偉は、警察内の内通者や権力を握っている真犯人たちの圧力で次々と窮地に追い込まれ、罠にかけられてしまいます。
彼らが打った最後の手段、それは・・・
とにかく江陽を演じた白宇の演技がよかった。私がこれまで見てきた彼の演じたキャラは「鎮魂」の趙雲蘭にしろ「神探」の羅非にしろ、架空世界の中で人物だったので、彼らをどう血肉のある人物に作り上げるかが腕の見せ所でした。今回の江陽はそれとは全く違います。現実の中でもがき、地位も名誉も仕事も家族もなげうち、刑務所にまで入れられて、ほとんど人格崩壊しながらもそれでも正義を貫こうとした「普通の人間」を描き切っています。
汚職の汚名を着せられ、二年も刑務所に入れられた江陽が志を共にする朱偉と陳明章に迎えられた場面などは本当にすごい場面でした。
若くして平康県検察院の要職に就き絢爛たる将来を約束されていた青年が、大金が入ってるわけでもない財布が見当たらないと泣きじゃくるような人間に変わってしまった。そのうえ、肺癌に侵され、余命もあとわずか。彼が、この侯貴平の事件にかかわらなかったらと思わずにはいられません。検察院に採用されたことを小躍りして喜ぶはつらつとした青年から、事件にのめり込んでいく姿、すべてを失い衰弱しきった、でも正義を果たそうとする執念だけは変わらない・・そういう江陽の生き方を白宇がとことん見せてくれたと思います。
そして、この彼の願いを果たしてやろうと朱偉たちが動き出します。
このグループの思いと並行して、真の悪人サイドの動き、そしてその両方を追う厳良たち2010年の捜査チームの動きが描かれます。
廖凡の厳良は「無証之罪」で秦昊が見せたようなギラギラしたところが影を潜め、その分内面に重く積み重なっている感じがします。
公式の言う主役3人の中には入ってないんですが、「探偵役」としてはもう一人すごみを見せたのが朱偉の趙陽。私はこの人を最初に見たのは「少年包青天3」の公孫策だったのですが、「嫌疑人X的献身」の殺害されるヒロインの元夫とか「大江大河」の虞山卿とかどんどん込み入ったキャラを演じるようになったと思います。
で、公式が言う三人目の主役李静の譚卓。彼女自身が探偵役をして活躍するというわけではないのですが、そもその江陽を侯貴平の事件に引きずり込んでしまったという負い目をずっと背負いながら、彼女自身の生活はそれはそれでちゃんと築いてる。けれど、死をかけた江陽の思いを果たすために彼女もまた傍観者ではいられませんでした。
他にもたくさんの俳優が見るものを引き付ける演技を見せてくれました。黄毛を演じた韓朔なんか中華サイト情報によると37歳なのに20歳ばかりのチンピラをやり切ってるとか思い切った配役もされているようです。
特捜チームを率いる任玥婷@呂暁霖のできる上司ぶり。彼女が厳良と共に次第に真実の姿を見せてくる巨悪に立ち向かいます。
中華ミステリに登場する女性キャラは不必要なミニスカートきせられていたり、お茶くんだりさせられていないのがよい。かといってむやみに男性化させるわけでもなくナチュラルに職業人として女性を描いてる。ただ一つ、そういう女性差別を暴き出した「時空来電」が実は韓国のドラマのリメイクで、日本版も作られてるというのが何とも言えないところでもあります・・・
ミステリではありますが、謎解きそのものよりもこの事件に関わった人間たちの人生を描くことに重点が置かれていました。そして、それが幻玄ドラマ続きの中で余計にずっしり存在感を放つ作品にしていたと思います。視聴後の満足感たっぷりです。
演 員 角 色
廖 凡 飾 严 良
白 宇 飾 江 阳
谭 卓 飾 李 静
宁 理 飾 张 超
黄 尧 飾 张晓倩
赵 阳 飾 朱 伟
田小洁 飾 陈明章
吕晓霖 飾 任玥婷
赵雷棋 飾 顾一鸣
陆思宇 飾 侯贵平
牛 超 飾 小 马
職 員
出品人 龚宇
制作人 卞江、鲁丹、杜翔宇
監 制 王晓晖
原 著 紫金陈
導 演 陈奕甫
編 劇 刘国庆