44~55集
どうしようもなく自己中でけたたましく登場した張妼晗が退場するまでの今回視聴分。
私の一押し范仲淹も、彼の政敵夏竦も中央政界に復帰しないままに世を去りました。同じく地方に送られていた韓琦たちは中央に復帰、また一世代交代した仁宗の朝廷です。
今回の視聴分のポイントはやはり張妼晗でしょうね。ぶっちゃけウザキャラで、私には目障りだったのですが、いやちょっと待て・・・と思えてきた。
ということで後宮ドラマ苦手な迷子さんには珍しく後宮とりあげたお話。
歪んだ見方と言われても仕方ないですが、まあ感想文です。
日本でも放送された「如懿伝」と「延禧攻略」が全く同じ清朝乾隆帝の後宮を取り扱ったドラマで、登場する女性たちがほぼ真逆の性格付けをされていることは知られています。
「延禧攻略」はよくいや頭の回転が速い、悪くいや小賢しい魏瓔珞が下っ端の官女から皇后にまで上り詰めていく話で、自分に向かってくるものには容赦なく反撃するヒロインが痛快だという評価が高いです。ところが、この瓔落にあたる「如懿伝」の衛嬿婉は、栄達を求めて次々殺人を重ね、最終回での無残な死を歓迎する反応があふれるほど嫌われた極悪なキャラ。(どちらにしても乾隆帝~と思わずにはいられないですが・・・)
後宮ドラマにかかわらず、こういう例はいくらでもあります。武侠ドラマだと崋山派なんかの扱いが話ごとに全く違ったりします。
同じ人物をモデルにしていても描き方次第で光と影、裏と表、180度キャラが変わってくる。
それが仁宗後宮に生きた二人の女性の姿に表現したのがこの「清平楽」でしょうか?
「清平楽」で、この対比を構成するのが皇后曹丹姝と張妼晗。どっちが光でどっちが影かは微妙。曹丹姝は有能な皇后として皇帝からも、朝廷からも、後宮の女性たちからも尊敬されてまさに「母儀天下」の国母。ところが彼女が唯一得られないのが、結婚前からあこがれていた皇帝趙禎の愛情。やっとこの時期になって夫に押し倒される場面が出てきましたが、これまで見た記憶がない。この夫婦、十数年ずっと仮面夫婦だったと言われても驚かない。
仁宗が愛したのは彼の後宮のなかの「異分子」張妼晗なのです。頭から「あなたが愛してるのは私だけ」と身分の違いも何も考えずに迫り、全身全霊で仁宗を篭絡します。ところが、彼女にはそれで一族を繁栄させようとかいう目論見はない。ただ野生のカンで自分と愛する男を競いそうな人物に次々と噛みついていきます。
後宮を預かる曹丹姝にはもう「お手上げだから、官家が好きにすれば・・・」と見放され、まだ幼い仁宗の娘福康公主からは「気の毒な人だから、何言われてもスルーしとく」と上から目線で憐れまれています。
3人娘を生むもののすべて夭折、彼女をリードし守ってきた賈婆婆が死ぬと彼女の周りには誰もいなくなってしまいます。ますます頼るのは皇帝一人。だけど、彼女の道理をわきまえない言動は仁宗の不興も買い、それでも結局は甘やかしてもらってます。よくキャンキャン鳴いて噛みつき癖もあって周囲からは迷惑顔されているけど、飼い主だけには甘えて可愛がってもらっているペット・・・そんな感じなんです。
後宮ドラマの多くの反派なヒロインたちが主体的に悪事に手を染めていくのとは随分感じが違うように思います。
考えてみれば、これほど悲惨で残酷な設定をされたキャラというのも珍しいんではないでしょうか?教養溢れる女性たちであふれる後宮にいるただ一人の無教養な異分子、かといって教養を身につけようと努力するわけでもなく、周囲から「皇帝のお気に入りだから」という理由以外には相手にもされないどうでもいい存在、協調性のかけらもないからすり寄ってくる人間以外には話し相手もなく、言葉では「子どもなくしてかわいそうに」とか言われていても心底では喜んでるんじゃないかなどと猜疑心に満ち、結果誰とも交われず、ますます皇帝の愛にすがるしかない・・・
仁宗だって、彼女の下品さ、嘘や思い込みは十分承知している、ペットのように扱うのではなくきちんと一人前の人間として扱っていたら、ここまで彼女を孤立させ孤独な人生を送ることにはならなかったかもしれない。
仁宗趙禎の愛してはいるが、結果残酷な彼女への扱いが寒々しい。それを可視化したような彼女の貴妃昇格後の宮殿の寒々しさ、造形が光ります。
対する皇后曹丹姝、周囲には彼女を慕う人々があふれ、高い地位にふさわしい言動が尊敬されています。でも、やっぱり夫に妻として愛されない彼女も孤独な人生を生きています。
どうもこのドラマ、最初に考えていた以上に仁宗ディスってる感じがしてきました。「孤城閉」で制作発表があったころには、ワーカホリック仁宗の政治ドラマかと期待してたんですが、どうもそういう感じでも後宮ドラマでもなく、皇帝としてはがんばってるけど、個人レベルでは人間を見る目がない男とその身近な人たちの悲劇なんじゃないかと思いつつ、もうすぐ福康公主のお輿入れ。仁宗に人を見る目があればね~の話が始まります。